INTERVIEW Vol.1 セガ PS3『戦場のヴァルキュリア』ディレクター田中俊太郎 x TVアニメ『戦場のヴァルキュリア』監督 山本靖貴
2008年4月、プレイステーション3で発売されるや絶大なる人気と支持を誇ったアクティブシミュレーションRPG『戦場のヴァルキュリア』。2009年4月のTVアニメ―ション放映を控え、ゲーム版のディレクターを務めた田中俊太郎氏とアニメーション版の監督を務める山本靖貴氏へのインタビューを3回にわたってお届けする。
第1回は、いかにして『戦場のヴァルキュリア』はアニメーション化され、そしてどのように描かれていくのかについてお伺いした。
――『戦場のヴァルキュリア』がアニメ化された経緯をお聞かせください。
田中俊太郎(セガ『戦場のヴァルキュリア』ディレクター)以下田中:我々は、2008年4月24日にプレイステーション3で『戦場のヴァルキュリア』を発売したのですが、そのときから、「アニメ化できたらいいなぁ」という希望を持っていました。そういった思惑とは別に、アニプレックスさんからアニメーション化のお話を頂きまして。「これはいい話」だと。そこから企画が始まりました。
――オファーがあったのはいつくらいだったのでしょうか?
田中:最初にお話を頂いたのは、2008年の5月くらいだったと思います。我々の野望として、開発していた段階から、「ソフトがある程度売れたらアニメーション化の持ち込みに行こう」と思ってましたから、先んじてお話を頂けたのは大変光栄でした。しかも、作って頂けるのがA-1 Picturesということで。我々もそれまでに何作かA-1 Picturesの手がけられた作品を見てまして「これはすばらしい」とスタッフ一同喜んだのを覚えています。
――アニプレックスからのオファーに対してセガからのリクエストはあったのでしょうか?
田中:ゲームだとどうしても戦闘とストーリーの本筋をなぞるところで精一杯になってしまい、戦争という非日常の中での日常生活を描ききれたかというと疑問が残ってしまいます。ご飯を食べたり、洗濯したりといったシーンがアニメーションでは出てくるのですが、最初に山本監督とお話をさせて頂いた際に、そういう戦争の中での日常生活を描いて欲しいという要望は出させて頂きました。
山本靖貴(アニメーション版『戦場のヴァルキュリア』監督)以下山本:最初、私にお話が頂けた時に、『戦場のヴァルキュリア』が戦争ものということで、シリアスで辛い話かもしれないと考えていたのですが、ゲームを拝見したところで、日常やキャラクターに魅力がある作品だと思いまして、その辺の温かみや、柔らかさをもっと掘り下げていければ、面白くなると思いました。
――監督に質問ですが、作品世界をイマジネーションするにあたって参考にされた作品はありますか?
山本:参考というわけではないのですが、いわゆる『名作劇場』のように日常を描く雰囲気を大事にしているとゲームを見て思いましたので、そういうところを厚く描きたいですね。また、物語の主軸となるウェルキンとアリシアの関係ですが、僕自身恋愛ものが好きなこともあり、上下関係のあまりはっきりしていない部隊でのある意味学園もの的な和気藹々とした雰囲気を出したいと思ってます。そういう意味でアニメーションというより、テレビドラマのように幅広い層に楽しんで頂けるものにしたいと思っています。
田中:今、絵コンテや脚本を拝見していて、戦車がバリバリと出てくる戦争のシーンもあるのですが、それだけではなく、戦闘以外の普段の宿舎での生活や、恋模様なども描かれているので、かなり見ごたえのある内容になると期待しています。
――ゲームの場合は日常イベントの後に戦闘という流れになる訳ですが、アニメーション版は、日常と戦闘がどれくらいの比率になるのでしょう?
山本:ゲームではもちろん戦闘がメインになる訳ですが、田中さんから「もっと日常イベントを描きたかったけれど、泣く泣く切りました」というお話を伺っていたので、ゲームでは出来なかったことを掘り下げていきたいですね。メインは恋愛。アニメーション版の場合は、ウェルキン、アリシア、ファルディオの三角関係と膨らませています。それを軸に各キャラクターの魅力を描くエピソードを盛り込んでいければと思っています。
――表現のお話になるのですが、ゲームでは水彩画を基調とした画面構成が特徴的な作品でしたが、アニメーション版ではどのようになるのでしょうか?
山本:アニメーションでも何か出来ないかとテストをしている段階です。ただ、技術の主張のために作品を疎かにするのは本末転倒なので、今のところは方向性を模索しています。
田中:画面作りにはこだわられていて、いろいろテストされているのを拝見しているので、最終的にどのようになるか、我々も楽しみにしています。
――ゲーム内にはオノマトペ(擬音語)が登場しますが、これも含めて漫符(漫画特有の記号表現)をお使いになるのでしょうか?
山本:ギャグものであったり、子供向けのアニメーションの場合は分かりやすく、軽くするために僕も漫符をよく使うのですが、恋愛であったり戦場であったりというものを描くときに漫符のような軽いタッチには抵抗があるので、今作では使わない方向にしています。
田中:アニメーション版では、ギャグっぽいお話もあるのですが、そういうドタバタしているシーンなどでは、キャラクターがゲーム中では見せないコミカルな表情をしていたり、そこはゲームとは違って面白いですね。
山本:そうですね純粋に1話丸ごとギャグというお話もあります。
田中:「イサラがこんなことを!」といったものや、アリシアが表情豊かで面白いとか。ゲームのアリシアは心配症で、ウェルキンの副官として描かれていましたが、アニメーションのアリシアは喜んだり、悲しんだり、怒ったり、感情豊かに描かれているので彼女を見ているだけでもとても楽しいですね。ゲームとはまた別のキャラクターの魅力を見ることが出来ます。
――監督としては、どこがいちばんの見所になると思われますか?
山本:ゲームとは異なるという点では、恋愛部分だと思います。三角関係というのは、ゲームではまったく描かれなかったわけですが、アニメーションで三角関係を描くことでどういう化学変化を作品に与えるか、そこをいちばんハラハラして見て欲しいなと思います。
田中:ファルディオはプレイボーイですから、「アリシアはどうするんだろう?」と思って見ていただければ……(笑)。
――当たり前ですが、物語はゲームと同様に進行するのですよね?
山本:わかりませんよ(笑)。
田中:戦争中ですから。もうひとつのヴァルキュリアの物語が展開されるかもしれません(笑)。